第6章 遠出
スヴェトザールにとって妻とは何なのか。
半年ほど共に過ごしてきて掴めたのは、自分はまるで庭園や温室の草花と同じ扱いだという感覚だけだ。
良い状態を保つために環境を快適にされているだけ。求められることといえば、夫人としての仕事をこなすことくらい。
それ以外、どこで何をしていようとスヴェトザールは関心を示さない。
きっと不貞を働いたって許容されかねない。
大事にされているのは分かる。でも愛されている実感はない。
「(夫婦って、ほんとにこんなものなのかな……)」
そんなことを考えながら、サプフィールは昼食の時間になるまで暖炉の火を見つめていた。
午後からは夕方の招待会に向けた準備で屋敷内が慌ただしげな雰囲気になる。サプフィールもまた、ソーニャと共に着替えや化粧を進めていた。
「うっ……ソーニャ、苦しい……」
「申し訳ございません。ですが、どうか我慢を」
鏡台の前に手を突いて呻くサプフィールに、ソーニャがそう返す。
着る予定のイヴニングドレスに合わせて、いつもより隙なくコルセットの紐が締められていた。
普段なら手心を加えてくれているソーニャも、この日ばかりは正式な場にふさわしい装いにするため苦渋の思いで主人のウエストを締め上げる。
「結婚式以来だよ……こんなの……」
なんとかコルセットを締め終え、2人は少しの間息を整えた。
サプフィールは目の前の鏡を見て、胴から腰までのなだらかな曲線を確認する。
「嘘でしょ。これで皆の普段着と同じくらいなの?」
鏡に映る、至って平均的な貴婦人のシルエットを見たサプフィールが呆れた声を出した。
「もっと緩く締めるのが流行るといいですね……」
一息ついた後、用意していたイヴニングドレスをソーニャに着せられていく。
淡い青緑の絹地に、小さな白い花の刺繍が入ったものだ。胸元は広く開き、短い袖の縁には柔らかなレースが重ねられている。
白い長手袋をはめながら、サプフィールはドレスの刺繍へ目を落とした。
「この刺繍の花は……スノードロップかな?」
「おそらく。ちょうど今が時期ですね」
ドレスを着付け、椅子に座り髪を梳かれる。
ソーニャはサプフィールの鳶色の髪を中央で分け、耳の後ろへ滑らかに流して後頭部の低い位置でまとめる。