第6章 遠出
「なにかご不便などございましたらお申し付けください」
そう言って、案内役の従僕は下がっていった。
サプフィールはソーニャに近寄りながら室内を見回す。
天井から下がる灯りやカーテン、ソファに絨毯、室内のあらゆる調度品が落ち着いた雰囲気で揃えてある。
部屋の中心には艶々としたティーテーブルを挟むように、座り心地の良さそうな肘掛け椅子が二脚置かれていた。
暖炉にはあらかじめ火が焚べられていて、室内はほんのり暖かい。
華美なものが少ないコズロフ邸に近いものを感じ、サプフィールは少し緊張がほぐれた。
「素敵な部屋ですね」
「ええ」
サプフィールはそわそわと室内にある3つのドアを開けて回る。
寝室が二部屋と、化粧や着替えに使える部屋が一部屋あった。この小さな客用の居間と合わせて一式になっているようだ。
それから1時間ほど休憩し、2人は夕食の席に呼ばれる。ダイニングルームには、他にも招かれた貴族が何人かいた。自分たちと同じく泊まりがけらしい。
サプフィールは畏まりすぎて食事の味が分からなかった。
翌日。午前は自由に過ごしていいと言われていたものの、サプフィールは客用居間から動けずにいた。
ソーニャに庭園での散歩を提案されたけれど、もし誰かと鉢合わせたらと思うと恐ろしくて断るしかなかった。
室内にあった本棚から数冊本を抜き取って、暖炉の前に座って読んでいる。
昔話や伝承が載った民話集ではあるものの、わりと婚姻の物語が多い。人外に嫁ぐ話や呪われた王女の話、死んだ伴侶を冥府から連れ戻そうとする話。幸せな結末もあれば、そうでないものもある。
「……」
サプフィールは出入り口の扉を振り返った。朝食の後からずっと1人だ。
スヴェトザールは公爵や他の客人たちと交流しに行っているからここには居ない。
「仕事ばっかり……」
領地から離れても、他の領主と各々の領地の近況や政治の話に耽っている様子を想像しながらサプフィールが椅子にもたれかかる。
自分の結婚生活はどうなんだろう、と考えながらサプフィールは本を閉じる。
不自由は何もない。でも幸せかと言われたら、少し違う。
幸せな暮らしだとは思う。でもそれは暮らしだけ。