【H×H ミルキ】夏の大作戦 〜軽井沢に行きませんか?〜
第7章 エピローグ
夕暮れの光が、ホテルのバーラウンジを琥珀色に染めていた。
大きな窓の向こうには、軽井沢の深い緑が広がり 傾きかけた陽射しが木々の梢を照らしている。
細く流れるジャズに身を委ねながら、テーブルに楕円の影を落とすグラスへと手を伸ばす。
開店すぐの店内は客の姿もまばらで、静かに酒を楽しむには申し分ない。
氷の触れ合う音に耳を傾けクロロがようやく一息ついた、その時だった。
「それで、いつまでボクを待たせるんだい?♠」
向かいの席から、甘ったるい声が投げられる。
クロロはグラスを口元へ運びかけたまま、わずかに目を細めた。
「またその話か」
「団長がボクとの約束を果たすまでは、諦めないよ♥」
「約束などしていない。お前が一方的に言っているだけだ」
「相変わらずつれないねぇ……逃げようったって、許さないよ♣」
ヒソカは頬杖をつき、グラスのステムを指先でなぞった。こちらの顔を覗き込むように身を乗り出し、蛇のような視線を絡ませてくる。
クロロはしばしの間その視線を受け止めていたが、やがて付き合いきれなくなりグラスを置いた。
まったく、昔から変わらない男だ。
何年経とうと、顔を合わせればこの話になる。いい加減忘れてもよさそうなものだが、ヒソカにその気配はない。
もっとも、まともに相手をするつもりなど毛頭ない。
クロロは隣へ目を向けた。
「……イルミ。さっきから何を見ている?」
イルミは深いソファに身を預け、長い黒髪を肩から垂らしていた。先ほどからこちらの会話には見向きもせず、スマートフォンを眺めている。白い指先だけが、ときおり画面の上を滑った。
「ミルキの現在地」
平然と答えるイルミを、クロロは見直す。
「……なぜ?」
「予定と違うから」
イルミは顔も上げない。
今ごろミルキは予約したカフェにいるはずなのに、位置情報は湖畔の一角を最後に更新されていないらしい。
名門一家というものは弟の初デートをそこまで監視するものなのか。
クロロは首をわずかに捻りながらグラスに口をつけた。