【H×H ミルキ】夏の大作戦 〜軽井沢に行きませんか?〜
第6章 恋のバトンタッチ
「おいっ!」
(!……)
木立の向こうから怒鳴り声が飛んできた。
(……ミルキくん?)
声のした方を見ると、湖畔へ続く小道の先に一人の青年が立っていた。
きちんと襟のついたシャツに、少し窮屈そうにジャケットを羽織り、髪は丁寧に整えられている。
だが、その額には大粒の汗が浮かんでいた。
「やあ、ミルキ」
「おせーぞ、イル兄」
青年は目を細く吊り上がらせている。
「何分遅刻してると思ってんだよ!」
「ほんの少しでしょ」
「少しじゃねーよ!」
「分かったよ。遅刻した分は計算しておくから」
「そういう話じゃねえ!」
二人のやり取りを、穂乃果は呆然と見つめた。
「……イル、にい?」
イルミが振り返った。
「穂乃果。紹介するね」
「は、はい」
「これ、ミルキ。俺の弟」
「…………え?」
穂乃果は青年を見た。
青年も穂乃果を見た。
「……おとうと? 」
気まずそうにこちらを一瞥し、すぐに真っ黒な目を逸らす。長い睫毛が瞬きに合わせてパタパタ上下し、艶やかな黒髪が木立の葉と同じリズムでサラサラと揺れている。
その一連の仕草と横顔に、穂乃果はイルミの面影を見つける。
「……ぁあっ!!!」
「ようやく分かった?」
「え? え? でも、……どうして?」
「最初から君をここへ連れてくる契約だったんだ」
「……契約?」
「ミルキからの依頼は、君を保護して無事引き渡すこと」
穂乃果はもう一度、青年を見た。
「……ミルキ、くん?」
「……お、おう」
いつもの声だった。
少し不機嫌そうで、ぶっきらぼうな声。
ゲームで失敗した時も、難しい問題を教えてもらった時も、何度も聞いたことがある。
けれど、こんなに近くで聞いたことはなかった。
(……本当に、ミルキくんだ)
画面の向こうにいたはずの人が、今、目の前にいる。
そう思った途端、何を言えばいいのか分からなくなった。
ミルキも何か言おうとしているようだった。
口を開きかけては閉じ、落ち着かなげにジャケットの裾を引っ張っている。
「…………」
「…………」