第12章 全て元通り
「自分の部屋に……」と、言いかけて、その先の言葉を呑み込んだ。
椿は机の上の拳を握った。
その一言が言えたなら、きっと悟と自分の関係も変わると分かっていたのに、椿はどうしてもそれが出来なかった。
椿が応接室に入ると、悟はすでにソファに座っていた。
入ってきた椿を見て、目隠しの奥が動いたのが分かった。
椿は悟の目の前のソファに座って、膝の上に置いている自分の手を見つめた。
発狂した姿を見られたことが、椿から言葉を奪っていた。
悟はしばらく静かに椿の様子を窺った後、徐に口を開いた。
「……結婚はするよ。むしろ早くしよう。高専の仕事を受けるようになったら、今よりも時間が取れなくなる。」
椿は悟の言葉に顔を上げた。
少し前まで結婚しないと言い張っていた悟の心境の変化に呆然としていた。
「……アレ持ってきて。」
「え?…うん…。」
椿は悟が言う『アレ』が『結婚誓約書』だと言うことに、すぐに気が付いた。
昴に目配せをして、すぐに書類を持って来させた。