第12章 全て元通り
こんなことはなんでも無い。
いつものように仕事に没頭すれば頭から離れる出来事だった。
だけど椿は五条家に嫁ぐために、自分が居なくても会社が回るように仕事を手放していた。
この頃には、一日中執務室に居たかつての生活から、仕事の時間は半日ほどにまで縮まってしまっていた。
「食事にしますか?」
昼を回った頃、手持ち無沙汰な椿に昴は聞いた。
「…いいえ…出掛けるわ…」
食事を取らないのは、仕事があっても無くても変わらないようだ。
椿はコートを羽織ると、執務室を出て、エントランスに向かった。
その間に昴は車をエントランスに呼んでいた。
「…車はどこに向かわせるんですか?」
「…ジュエリー店よ。オーダーした結婚指輪を取りに行くわ」
「…………」
『そこまで用意してたんですね』
そんな言葉は出なかった。
ただただ、五条悟を不憫に思った。
実際、昴には悟の心情なんて計り知れない。
椿の結婚条件に沿おうとした気持ちさえ理解に苦しむ。
だけど昴もまた、悟を不憫に思いながらも、政略結婚を進めるための業務をする、元の日常が戻ってきただけだ。