第11章 イカれた世界
椿の肌に食い込んでいる指に力が入った。
どんなに力を入れても、椿の直哉を見る目は変わらない。
「……それだけやないやろ?」
そう言って直哉は顔を近づけて、椿の唇に触れた。
途端に全身に電流が流れたようだった。
顔を背けようと動かす椿の顎を抑えて、直哉はさらに深く唇を押し付ける。
避けていた声、避けていた感触、避けていた匂い。
全てがいっぺんに椿を包んだ。
押さえつけている椿の肌には、直哉の指の痕がくっきりと付いていた。
暴れる体はこのキスを全力で拒否している。
嫌で嫌で堪らない。
なのに、直哉の手の力が緩んで、拘束を解かれた時。
椿の手は直哉の背中を掴んだ。
抱き締めもせずに、彼の着物を握りしめながら、そのキスが深くなるのを受け止めていた。
夢だ。
これは夢でなければいけない。
こんなイカれた世界はあってはならない。
なのに、そのキスは夢心地ですらなくて、絡まる舌もぶつかり合う息も、全てが生々しかった。