第11章 イカれた世界
直哉は椿の腕を強く引き寄せた。
短い悲鳴が椿の唇から漏れた。
「…死にたくない…殺さないで…。」
いつの間にか椿の声には涙が絡んでいて、何度も小さくしゃくり上げながら直哉の手を払っていた。
直哉は短くため息を吐くと、一旦手を引いた。
直哉の手が離れると、椿の体はまた崩れて、後部座席の下に隠れるように丸くなった。
この女が無様に逃げる姿に腹が立った。
涙で顔をぐちゃぐちゃにして、体を震わせてまるで無力な子供のように泣きじゃくっていた。
凛と伸びる背筋が綺麗だと思った。
人を視線一つで動かす椿が、傲慢にも美しかった。
直哉は強く拳を握り、そして再び手を椿に伸ばした。
今度は指先だけで椿の頬を撫でた。
涙で張り付いた髪を指ですくうと、そのまま椿の頭をひと撫でする。
直哉の手が頭を撫で、そのまま背中まで優しく触れながら、何度もゆっくりと手を往復させる。
「… 椿。」
低く落ち着いた声が耳に届いた。