第11章 イカれた世界
なのに差し出した手は払われて、この事態を引き起こしたのが直哉であるかのように椿は直哉から自分の身を守った。
「やだっ…殺さないで…っ。」
ふと最近見る奇妙な夢を思い出した。
夢の中で直哉は椿の恋人であり、彼女は見たことの無い笑顔で直哉の隣にいる。
横に座る時間よりも、触れ合う時間の方が長くて、見つめ合う時間よりもキスをする時間が長い。
何度も何度もキスを繰り返して、直哉の手が椿の服の中に入り込む頃には、二人でもつれながらベッドの中に入っていく。
椿はどんな時も直哉を満たせていた。
きめ細やかな触り心地の良い肌も、名前を呼ぶその声も。
その全部を抱き締めて、余すことなく自分の腕の中に押し込めた。
(ほんま、妙な夢やな…。)
夢の中の満たされた気持ちが全身を支配しているのに、頭は冷静で、直哉はそのおかしな光景をぼんやりと見ていた。
直哉は椿が笑った顔など見たことも無かった。
なんなら、彼女の声がこんなにも甘く、自分を刺激するなんて想像すら出来ない。