第10章 結婚しない
こんな風に期待だけさせて突き放されるなら、初めから知らない方が幸せだった。
悟の腕の中で安心して朝を迎える幸せがあったなんて。
悟を恨む気持ちも確かにあった。
だけど、椿は悟がどういう生き方をしているか知っていたから。
夢の中でも現実でも、悟は呪術界に誠心誠意尽くしていた。
人より多くの才能を授かった悟は、その責務を全うする人だった。
その悟が昴に手を貸して欲しいと言ったのだ。
椿は昴から視線を逸らして車に乗り込んだ。
「…五条家なら安心よ。だけど、悟の用事が終わったならすぐに迎えに来て。」
そう言って椿は車のドアを閉めさせた。
昴は椿を乗せた車が遠ざかるのを黙って見送った。
凄く嫌な予感がしていた。
だけど、昴にとって椿の命令は絶対だった。
「初めまして伏黒恵くん。俺は君と同じ術式を持っている、一条昴と言います。」
自分と同じ血縁のまだ小さな男の子に、昴は軽く会釈をしながら自己紹介をした。