第10章 結婚しない
やっと迎えに来てくれた彼女の、嬉しそうに伸ばした手を握った。
椿は、強くなった昴を見て満足していた。
あの時から、その笑顔の裏で、いつか禪院直哉を殺すための“犬”として昴を側に置いたのだ。
椿の爪が食い込んでいる皮膚から血が流れた。
昴は思い出から現実に戻るように、白くなるほど力を入れている椿の指を見た。
あの時差し出された手と同じように、白く細い指だった。
息を吐くと、体の力が自然に抜けた。
椿に特別なことを望んでいたわけでは無かった。
ただ、毎夜悪夢に苦しむ椿を救ってあげたい。
そんな気持ちで側に居た。
「……分かりました。」
昴は目を伏せると、自分の手首を掴んでいる椿の手に触れた。
昴の声が聞こえると、ようやく椿の体の強張りが解かれていく。
椿は昴の手を掴んだまま、彼の手に額を付けた。
自分の手にうつ伏せになり、肩を震わせている椿を黙って見下ろした。