第10章 結婚しない
椿は宙を見ながら、充血で赤く染まった目を見開いていた。
まだ噛み締めている唇から、血が流れているのが見えると、昴は彼女の下唇を引き下げる。
「……もういや……。」
散々叫んで掠れた声が赤い唇から漏れた。
椿の目がギロリと昴を捉えると、彼の手首を爪が食い込むほど握りしめた。
「…もう耐えられない…悟が希望にならないのなら…。」
「あなたが禪院直哉を殺して。」
そう昴に命令する椿の顔は正気には見えなかった。
昴は狂っている自分の主を見ながら顔を顰めた。
ふと、何故椿が自分を引き取ったのか。
理由がやっと分かった。
昴が椿にする慰めは、抱き締めることでも、側にいることでもなくて。
禪院直哉を殺すこと。
それが椿が昴に望んでいたものだと気が付いた。
『帰ろう。昴。』
三年前に16歳になった昴に手を差し出した椿の笑顔を思い浮かべた。