第10章 結婚しない
悟はまずマンションの解約をした。
しかし、新しい家を用意することもなく、椿からの連絡には無視を続けた。
悟が高専と仕事を行き来している日々を続ける中、椿の方は心身の限界に来ていた。
「ああああああ!!いやぁぁー!!」
また毎夜椿の発狂が繰り返される。
昴はメイドに呼び起こされるたびに椿の寝室に向かう。
少しでも行くのが遅ければ、椿は自分の体を掻きむしってしまう。
椿のベッドに片膝を乗せて、彼女が暴れないように体をシーツに押し付ける。
服からのぞく肌には引っ掻き傷が残り、彼女の指先には剥がれた皮膚と血が滲んでいた。
昴は顔を顰めて、鎮静剤の入った注射を出すと針を椿の肌に向ける。
一瞬、頭の中に悟の顔が浮かんだが、椿が自分の唇を噛んでいるのを見て、針を椿の腕に刺した。
そして、彼女の発作が治まるまで、彼女の体をキツく押さえつけた。
段々と暴言が収まり、暗い部屋の中には椿の荒い呼吸だけが響いた。