第10章 結婚しない
昴に見られた屈辱感は椿を冷静にさせた。
椿は靴を履くと、昴の膝から体を離して床に降りた。
閉ざされたドアを一瞬見た。
開けられることのないそのドアに目を顰めたが、すぐに踵を返した。
「…帰るわ。」
そう一言言って、椿はそのまま歩き出した。
昴も一瞬ドアを見たが、悟の気配はすでにそこに無かったので、椿に従い歩き出した。
部屋の中で悟は、自分が破り捨てた誓約書を見下ろしていた。
二度と触れたくないそれを拾い上げると、そのままゴミ箱に捨てた。
離婚を前提に結婚する。
あの女はまだそんなことを本気で言っていた。
それに腹を立てて問い詰めたからと言って、椿の言い分は聞かなくても分かる。
どうせまた、この結婚であなたが損をすることは無いだとか。
3年経てばあなたを自由にしてあげるだとか。
そんな御託を並べるのだろう。
そんな結婚に、何の意味があるのかなんて考えたくもなかった。
悟はため息を吐いてソファに座った。