第9章 よくない変化
『なんで私があなたの好みに合わせないといけないの?』
そんな言葉が舌先まで出てきたが、かろうじて飲み込んだ。
悟の太い大きな腕は、抱き心地は良く無いけど、安心感はあった。
この腕の中で眠るときは、悪夢を見なくて済む。
それだけで、この腕を払わない正当な理由になる。
言い訳めいたその理由を頭の中で何度も反復させて、椿は目を瞑った。
自然に訪れた眠気に安心して身を任せたのは、15年間で初めてのことだった。
『ほんま、椿は俺のこと好きやな。』
そう言って、呆れながら直哉は自分に体を寄せる椿の頭を撫でていた。
興味がなさそうに振る舞っていても、椿が彼を好きでいることに、満足そうにしているのがよく分かる。
……さっきまでと違う腕の中。
椿はこれが夢の中だということをすぐに分かった。
彼の腕の中で、幸せそうにしている自分と、それを見つめる直哉の表情も穏やかだった。
お互いまだ10代の頃のようだ。
悪夢に抗わなかったら、こんな未来も本当に訪れていたのだろうか。