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緋色の誓い―第一章―

第2章 始まりの合図


背中の痛みと、語られた炎の記憶を胸に残したまま。



山の匂いが濃い。

村を出て、まだ数時間しか経っていない。

濁流から引き上げた子供は、この目で確かめた。

母親の胸に顔を埋めて泣き、父親に頭を撫でられていた。

『良かった…生きている…』

その光景が、まだ瞼の裏に残っている。

男に握らされた握り飯の重みが、左手にある風呂敷に感じる。

『道中で食え』

短い言葉だった。

斗亜は足を止める。

周囲を見渡す。

木々、細い道、踏み固められていない地面。

街道の気配がない。

「あれ…ここは…」

ぽつりと見知らぬ道に落ちる声。

「どこだ…?」

懐から地図を取り出す。

何度も折り畳んだ跡が、柔らかくなっている。

昔、京都にいた頃に手に入れたものだ。

あの頃は、これを頼りに町を出て歩いた。

店の位置も、通りの名も頭に入っている。

だが、今は違う。

山の中で広げると、ただの紙に見える。

じっと睨む。

現在地を探す。

周囲を見る。

もう一度、地図を見る。

「……」

指で街道の線をなぞる。

「東海道は…こっちか…?」

視線を上げる。

見えるのは山ばかり。

海の気配などない。

それ以前に同じ景色に見える。

地図を回して、また逆さにする。

また戻す。

歩きながら、何度も見比べる。

「この地図は…古いのか?」

少し考えながら呟く。

地図を顔に近付ける。

宿場町の名前は読める。

川の位置も書かれてる。

だが、道が増えてるのか。

それとも自分が外れているのか、全く見当もつかない。

「そんなに昔のもんじゃねぇのに…」

道はそう簡単には変わらない。

「間違えてるのは…俺か…?いや…」

認めたくない結論に、口を閉じる。

ぎゅる~。

腹が鳴った。

近くにあった岩に腰を下ろす。

風呂敷の中から握り飯を取り出す。

少し潰れている。

一口かじる。

塩気が丁度いい。

「うまい…」

自然に呟く。

子供の顔が浮かぶ。

必死にしがみついてきた小さな手。

水を吐いて咳込んだあとの、泣き出した声。

胸の奥の重さが、少しだけほどける。

しばらくして、食べ終えると立ち上がる。

歩きながら、また地図を開く。

「古いのかなーこれ」

もう一度呟く。

地図と山道を見比べる。

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