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緋色の誓い―第一章―

第2章 始まりの合図


「怪我をしてて、困ってるように見えた…だから村で泊めたんだ」

斗亜は、何も言わず聞いている。

「そいつが…」

若い男は、言葉を探すように一度息を吐く。

「夜が明けて、いなくなって…その数日後だ…」

火を見る目が、揺れた。

「村が…焼かれた…」

短い衝撃的な言葉に斗亜の目が細くなる。

「連れてきたんだ…山賊を…家も…人も…全部持っていかれた…」

斗亜の胸に、重たい沈黙が落ちる。

「助けを呼んでも、誰も来なかった…」

男は唇を噛んだ。

「だから、それ以降…」

火ばさみを置く。

「旅人は、入れない。名前も聞かない。理由も、聞かない」

斗亜は、ゆっくりと視線を向ける。

「だから、今日…あんたを追い出そうとした…」

自嘲気味に笑う。

「なのに…」

視線が、隣の部屋に向く。

眠る子供の気配を感じる。

「俺の子が助けられた…」

「俺は…」

斗亜は囲炉裏の火を見つめたまま、ぽつりと言う。

男が息を呑む。

「ただ、この目に映る人を助けるだけだ」

責める声ではない。

諭すでもない。

ただ、事実を置いただけの声色だった。

男は、ゆっくりと頷いた。

それ以上、言葉は続かなかった。



やがて、夜が明ける。

障子の向こうが白み、雨は完全に止んでいた。

斗亜は静かに身支度を整える。

乾いた自分の着物に袖を通し、刀を腰に差す。

「世話になった…」

家主を起こさないように、静かに呟いて家を出た。

村の外れまで来たとこで、男が走ってくる。

「剣客!ちょっと待ってくれ!」

声が聞こえ、斗亜は振り返った。

斗亜に包みを差し出す。

「ん?」

「薬とサラシだ…替えを入れてある。あと握り飯だ!道中で食え」

斗亜は一瞬、躊躇い受け取った。

「ありがとう。助かる」

「また…旅人を拒むかもしれない」

斗亜に向かって、真っ直ぐ言う。

正直な言葉だった。

「それでもいい」

斗亜は、歩き出しながら答えた。

「守りたいものがあるなら、なおさらだ」

男は、斗亜の背中を見送った。

斗亜は、また流れる。

留まらず、名を残さず。

ただ、雨上がりの道を行く。

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