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緋色の誓い―第一章―

第2章 始まりの合図


若い男が顔を上げて、一瞬だけ迷う。

「俺の所に…雨が止むまで居てくれ…」

すぐに決意したように斗亜に言った。

斗亜は驚きながら、首を横に振ろうとした。

「泊っていってくれ」

その言葉に、斗亜は動きを止めた。

「あんたは…命の恩人だ」

若い男は、まっすぐ斗亜を見る。

「頼む」

拒む理由は、もうなかった。

斗亜は小さく息を吐き、頷いた。

「あぁ…世話になる」

村の中に入ると、空気が違った。

先ほどまでの刺すような視線はない。

用意されたのは、質素な一室。

小さな囲炉裏がある部屋だった。

屋根があるだけありがたい。

濡れた羽織と着流しと袴を脱ぎ、替えで渡された男の着流しを着る。

若い男が、斗亜に薬とサラシを差し出す。

「塗れ」

「ありがたい」

塗れた体を手拭いで拭い、薬を塗っていく。

サラシを巻くと、痛みがはっきりと輪郭を持った。

斗亜は、眉一つ動かさない。

囲炉裏に火が入れられ、部屋が少し暖まる。

雨音が、遠くなる。

「剣客…」

若い男が火を強めながら、ぽつりと口を開いた。

斗亜は視線を向ける。

「お前も…子供が、居るのか?」

斗亜は、すぐには答えなかった。

揺れる火を見つめる。

「昔にな…」

短く、懐かしむように答える。

それ以上は、語らない。

若い男も、深くは聞かなかった。

雨音はいつの間にか途切れ、囲炉裏の火が、ぱちりと小さく爆ぜる音だけ残る。

斗亜は壁に背を預け、目を閉じていた。

眠ってはいない。

ただ、体を休めている。

肩の奥が、鈍く痛む。

脇腹は熱を持ち、背中には重い違和感が残る。

それでも、呼吸は落ち着いていた。

囲炉裏の向こうで、若い男は火をいじっていた。

しばらく、何も言わない。

「昔はな…」

やがて、ぽつりと口を開く。

火ばさみが、炭を転がす。

「ここも、旅人を断る村じゃなかった…」

斗亜は目を開けず、聞いている。

「雨宿りだってさせたし。飯も、寝る場所もあった…」

少し、間が空く。

「あの時も、今日みたいな雨でな…」

声が低くなる。

「一人、旅人が来たんだ…」

火が、ぱちりと音を立てる。

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