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緋色の誓い―第一章―

第2章 始まりの合図


「掴め!!」

声の聞こえる方を見ると、村人の声だった。

濁流の音の中に混じって聞こえた。

村人が縄を、斗亜に向かって投げてくる。

斗亜は必死に縄を掴み、子供を押し上げた。

次に斗亜も上がり、足がよろめきその場に倒れ込む。

「っ…い…たたた…」

息を吐くと、雨音が戻ってくる。

「う…うわーん!!」

子供の泣き声が、はっきりと響いた。

生きている声だった。

斗亜は仰向けのまま、雨に打たれながら目を閉じた。

「良かった…生きている…」

誰かの声が、震えながら零れ落ちた。

斗亜の胸の上を、雨が叩く。

息を吸うたびに、肩が軋み脇腹が熱を持つ。

背中に残る鈍い痛みが、遅れて主張し始めていた。

子供の泣き声が、すぐ近くで響いている。

子供の方を見ると、母親の胸に顔を埋めて大泣きしている。

それだけで、十分だった。

若い男が、半ば転ぶように駆け寄ってくる。

腕を伸ばし、必死に子供を引き寄せる。

濡れた髪、震える肩。

「良かった…良かった…」

嗚咽混じりの息遣い。

何度も、何度も同じ言葉を繰り返す。

その男は、最初に斗亜を拒んだ若い男だった。

男は、ふと視線を上げた。

雨の中、仰向けに倒れたままの斗亜と目が合う。

一瞬、言葉を失う。

次の瞬間、男は膝をついた。

「あんた…どうして…命を投げ出すような真似をする?」

「目の前で子供が死ぬのが…耐えられない…それだけさ」

ゆっくりと上半身を起こして、困ったように笑った。

「っ!…いてて…」

「無理するな!」

遅れてきた痛みに顔をしかめると、別の村人が慌てて支える。

肩に触れられた瞬間、鋭い痛みが走る。

「っ!」

斗亜は小さく息を吐いた。

若い男は、強く首を振った。

「違う…」

子供を抱えたまま、深く頭を下げた。

「さっきは…」

言葉が詰まり、続かない。

雨が、少し弱まっていく。

川の轟音も、わずかに落ち着き始めている。

「ありがとう…」

それだけ言って、再び頭を下げる。

村人たちが、静かに二人を見守っていた。

誰も、もう斗亜を追い払おうとしない。

「どうぞ…中へ。このままじゃ、体がもたん」

村長らしき男が、斗亜を見てぽつりと呟く。

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