第2章 始まりの合図
太陽の位置を確認する。
「えーっと…南はあっちだろ…」
地図を回す。
「街道は…下…」
視線を巡らせる。
その時…かすかな水の音が聞こえる。
耳が拾った。
そちらに向かって歩く。
道なき道の草を踏み分ける。
少し歩くと、沢に出た。
しゃがみ込み、手を浸す。
両手で掬いあげて、一口飲む。
顔を上げる。
「水は下に流れる…下りれば、人里に出る!」
沢に沿って歩き出す。
ようやく、足取りに迷いがなくなる。
沢に沿ってしばらく歩くと、音が変わった。
人の声、荷の軋む音。
斗亜の足が止まる。
「……」
確かめるように、耳を澄ます。
街道の音だ。
沢を離れ、木々の間を抜ける。
視界が開ける。
広い道、旅人、茶屋の煙を見て確信する。
東海道だと。
「あ~…やっと戻った…」
安心したのか、小さく息を吐く。
何事もなかったかのように歩きだす。
「兄ちゃん!山の方から来たんかい!?」
すれ違った旅人が、驚いたように声をかけてくる。
「ちょっと寄り道だ」
即答して、そのまま歩いて行く。
夕日が東海道を橙に染めていく。
斗亜は懐から地図を取り出し、もう一度広げる。
しばらく地図を見て、ニッと笑う。
「この地図、まだ使えるな!」
そう呟き、地図を畳んで懐に入れ直す。
数日後。
斗亜が近くの町に入った時、ちょうど店々が灯りを入れ始める頃だった。
昼の喧騒が落ち着き、代わりに夕餉の匂いが漂ってくる。
焼いた魚、味噌汁、煮つけの甘い香り。
行き交う人々の足取りも、どこか家路を急いでいるように見えた。
「……」
斗亜は通りの入口で立ち止まる。
視線だけで町を測る。
宿場としては、そこそこ大きい。
旅人が多い。
商人も居る。
町人の数も多い。
そして、同じく腰に得物を差した連中もちらほら居る。
懐から財布を出して、金を指で弾く。
多くはない。
野宿でも構わない。
だが今日は、足が止まった。
空を見上げる。
赤く沈みかけた太陽。
「今日は宿に泊まるか…」
小さく伸びをする。
声に力が出ない。
それだけ疲れているのだと、自分で気づく。
「一泊どうだい?」
「飯付きだよ~」
呼び込みの声が次々と飛ぶ。