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緋色の誓い―第一章―

第2章 始まりの合図


墓の奥から住職が歩いてくる。

ザッ。

ザッ。

「ん?」

墓の前に供えられた花を見た。

「今年も来ておったか…また会えなかったのぅ…」

その場で静かに手を合わせる。

「お主も幸せじゃの…」

住職は墓に向かって微笑んだ。



京都を発ち、半日歩いた頃に東海道に入っていった。

山道に入る頃には、空の色が変わっていた。

湿り気を帯びた風が、木々を揺らす。

山道の空気が、ふと冷たくなった。

斗亜は足を止めて、空を見上げた。

雲が低い。

さっきまで薄く透けていた空が、灰色の布を引っ張ったみたいに塞がれていく。

風が草の匂いを運び、湿り気を含んだ土の香りが鼻先をくすぐった。

ぽつっ。

空から一粒落ちる。

頬に当たった雫は、冷たかった。

「おい…マジかよ…来るなよ?」

独り言みたいに呟いて歩き出した瞬間、雨粒が増えていく。

最初は細かく、やがて叩きつけるような激しい雨になる。

羽織を引き寄せ、斗亜は足を止めた。

視界の先、霧の向こうに人の営みがある。

低い屋根が連なり、山に寄り添うような小さな村だった。

焚き火の煙は見えない。

だが、人が住んでいる気配だけは確かだった。

「雨宿りくらいは…出来るか…」

そう呟いて、村へ歩み寄る。

刀は腰に差したまま、外す気はない。

それが理由で拒まれるなら、それまでだ。

村の入口に近付いた途端、空気が変わった。

鋭い視線、家々の隙間、半開きの戸口、小さな窓の奥。

「すまない!」

斗亜は立ち止まり、声を張らずに言う。

「雨が強い。少しの間、雨宿りをさせてほしい」

返事はない。

ピシャッ。

代わりに、戸が閉まる音が響いた。

若い男が一人、姿を現した。

濡れた地面には踏み出さず、距離を取ったまま斗亜を睨みつける。

「帰れ」

短い返事が返ってくる。

感情を押し殺したような声だ。

「この村は、旅人を入れない」

「そうか…でも一晩でいいんだ!雨が止めば、すぐに出る!」

斗亜は無駄に言い募らない。

条件を並べるだけだ。

だが、男は首を横に振った。

「だめだ。理由は聞くな」

数軒の家の戸口の隙間から、女や年寄りの視線が増えていく。

誰もが同じ目で斗亜を見る。

怯え、拒絶、そして諦めに似た目。
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