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緋色の誓い―第一章―

第2章 始まりの合図




確か…。

今から約百六十年前、黒船来航を発した激動の『幕末』

尊皇攘夷の大義、倒幕の旗、血潮に濡れた京の都。

その渦中で人々に恐れられ、しかし同時に求められた一振りの剣があった。

人斬り抜刀斎。

修羅さながらに若き志士は、ただ理想のために斬り続けた。

その血刀で『明治』という時代を切り拓き、動乱の終焉とともに忽然と姿を消した。

だが、伝説が消えたわけじゃなかった。

その名を引き継いだ者が、二人居た。

一人は『日本のため』にその剣を振るい、もう一人は『日本は自分のため』にと剣を握った。

物語りの幕が、再び上がるのは…。

明治十一年、京都。

そこから、浪漫譚は始まる。



京都。

黒い着流しに、白地に青の模様が入った羽織。

黒袴の裾には、横一文字の白の二本線。

腰には、廃刀令などどこ吹く風と言わんばかりに刀が差してある。

山あいの墓地を、男は静かに歩いていた。

石段は朝露を含み、足音を吸い込む。

霧がまだ低く漂い、墓標の輪郭をぼかしている。

無駄のない足取り、迷いのない進み方。

名を、緋村斗亜という。

手には、小さな花束。

白を基調にした、控えめなものだった。

墓列の奥。

雨風に削られながらも、丁寧に手入れされている。

斗亜は無言で膝を折り、線香に火を入れ花を添えた。

冷たさを確かめるように、指先で石に触れる。

しばらく、何も言わない。

風が吹く。

線香の香りが、細く揺れた。

「今年も命日に間に合ったな…」

独り言のような声だった。

「ゆっくりと眠ってくれ…」

それ以上は何も語らない。

ゆっくりと手を合わせる。

謝罪も、誓いも、名前も。

全部、胸の奥に沈めたまま。

線香の煙は、細くまっすぐ空へと伸びていた。

風が吹くたびに揺れてはほどけ、やがて見えなくなる。

斗亜はその消え方を、しばらく黙って見ていた。

「また…来年来るよ…」

小さくそう言って、ようやく手を下ろす。

長い沈黙のあと、立ち上がる。

未練を見せない動きだった。

「もう、行くよ…」

小さく息を吐いて、墓に背を向ける。

霧の中歩き去る。

墓石だけが残る。

居続けると、足が止まるから。

止まれば、思い出す。

それが分かっているから、斗亜は立ち上がり前へ進む。

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