第4章 因縁の残火
夜の帳が降りた大阪湾は、まるで海全体が呼吸を止めているようだった。
ザァア…。
波音だけが響く。
その先に巨大な影が横たわっている。
志々雄の艦。
闇と一体化してほとんど見えないが、確かにそこに“何か”がうごめいていた。
斗亜が目を細めながら呟く。
「さて…これからどうする?」
剣心は長い前髪を風になびかせながら、静かに艦を見つめる。
「とにかくまず船まで潜って忍び寄るでござる…それから船底に…」
「ちょっと待った」
左之助が身を乗り出し、三人の前に“何か”を掲げた。
金属の筒だ。
複雑な溝が刻まれ、内部には強烈な火薬が詰められたもの。
「穴開けるなら刀なんぞより、もっといーもんがあるぜ」
左之助の口元がニッと歪む。
「東京を出る時、克が“手みやげ”だってくれたんだよ。着火不要の最新型炸裂弾。海水に触れても作動する優れモンよ。船底の一つや二つ、粉々にしてやらぁ!」
「うわ…それ絶対ヤバいやつじゃん…」
斗亜は顔を引きつらせた。
「あ…でも炸裂弾って…いくら着火作業が要らなくても、それを持って海に潜れば当然中の火薬がしける。そうなればどんな高性能でも不発に終わるんじゃないか?」
斗亜の指摘に、剣心と斎藤は背後で同時にうんうんと頷く。
「…っ、お前らさぁ…もうちょっと夢とかねぇのか?」
左之助は斗亜へ向けて悔しそうに拳を握ったが、次の瞬間。
「つー訳で刀の無いお前は大阪の警官隊が来るまでここで大人しくしてろ」
斎藤の冷徹な宣告が、左之助の胸にズドンと突き刺さる。
「…ああ?てめぇ、誰に向かって…」
ギロッ。
左之助は斎藤をにらみつけるが、斎藤は煙草を咥えたまま一瞥すらしない。
その時だった。
カッ。
ドォォォォォォンッ!!!!!
海が揺れ、空が震えた。
爆音が四人の鼓膜を叩き、視界の端で巨大な炎が海面を照らし出す。
「なっ…何が起きた!?」
「志々雄の船が…自爆!?」
「大砲の不発か…?」
斎藤が低く呟くが、剣心は即座に首を横に振った。
「いや…違うでござる」
爆炎の向こうで、黒い何かが姿を現す。