第4章 因縁の残火
「師匠、お世話になりました」
「お世話になりました」
背を向けた、その時。
「待て」
振り返ると、比古が白外套を差し出していた。
重く、白いそれは朝の光を受けて静かに揺れる。
「代々受け継がれてきた白外套だ。飛天御剣流伝承者の証でもある」
一拍。
「受け取れ。剣心、お前にはその資格がある」
剣心は、無意識に自分がそれを羽織る姿を想像した。
同時に、横で斗亜が吹き出す。
腹を抱え、声を殺して笑い始めた。
「遠慮します」
剣心は穏やかに言う。
「俺は奥義を会得しても、飛天御剣流を継ぐ気はありません。受け継ぐのは…その理だけです」
「随分と手前勝手だな」
比古は鼻を鳴らす。
「ま、お前の勝手は今に始まったことじゃねぇがな」
外套を肩にかけ、踵を返す。
「勝手ついでに…もう一つ」
剣心が言う。
「俺たちが志々雄と闘っている間、葵屋にいる皆を守ってもらえませんか」
比古は振り返らず、外套を羽織り直す。
「お前が飛天御剣流を継がねぇと言った時点で、俺とお前は師匠でも弟子でもねぇ」
冷たく言い放つ。
「俺が師匠だったことは、さっさと忘れろ」
「師匠ッ」
「ただ一つだけだ」
足を止めずに続ける。
「俺がお前らに剣を教えたのは、不幸にするためじゃねぇ」
間を置き、低く言う。
「余計な心配はすんな。お前らはさっさと志々雄を倒しに行け」
二人は深く頭を下げ、山を降りた。
麓に下りると、馬車が待っていた。
警官隊の手配だと分かると同時に、有無を言わせず乗せられる。
しばらく走ると、辿り着いたのは警察署。
一階の窓が開き、そこから斎藤が顔を出した。
「意外と早かったな」
口元を歪める。