第4章 因縁の残火
「何してんだ?兄貴」
「あった…拙者が…いや…なんでもない」
剣心は正体の分からぬ粉を比古の口に含ませる。
「…師匠の強さに賭けるしかないな」
夜が、ゆっくりと明けていった。
そして。
ゴッ!
ゴッ!!
「いッ!?」
「ぎッ!!?」
眠りに落ちていた剣心と斗亜に、容赦ない拳が叩き落とされた。
緊張は、まだ終わっていなかった。
「何、呑気に寝入ってんだ。てめーらは」
低く荒れた声が、容赦なく叩き落とされる。
「帰りを待ってる人間が大勢居るんだろう。ぐずぐずしてねぇで、とっとと山を降りろ」
「…師匠…」
ぼやけた視界の向こうで、腕を組んだ比古が立っていた。
いつもの仏頂面だが、確かに生きている。
「よかった…あの薬、しっかり効いたんだ…」
「あぁ?」
比古は鼻で笑う。
「こんなもん、効くかよ。俺がでたらめに調合したエセ薬じゃねぇか」
「…あぁ…やっぱり」
「じゃあ…どうして…」
比古は何も言わず、逆刃刀を二人の前へ差し出した。
陽に照らされた刀身が、鈍く光る。
「…あえて言うなら、この刀だ」
比古は指先で柄を叩く。
「目釘が外れかかってる。刀身が抜けるか抜けねぇか、ギリギリまで緩んでやがる」
二人は息を呑む。
「そのせいで天翔龍閃の力が、ほんのわずかだが刀自身に吸われた。結果、威力が殺し切れなかった」
視線を刀に落としたまま続ける。
「持ち主の気持ちを、よく汲んでくれるいい刀だぜ」
「じゃあ…この刀でやってたら、師匠は死んでたってことか…」
一拍置いて、斗亜が付け足す。
「…長生きしましたね」
逆刃刀が放られる。
ガシッ、と剣心が受け取った瞬間。
ガッ。
比古の手が、斗亜の胸倉を荒々しく掴んだ。
「安心しろ」
間近で睨みつける。
「お前には一生、奥義は教えねぇ」
「……」
「だがな、見て覚えただろ。お前にはその才がある」
低い声が続く。
「天翔龍閃は逆刃刀ですら、十分な殺傷力を持つ」
掴んでいた手を離す。
「これから先、お前らが“流浪人”として、この技の強弱、緩急、そのすべてを自分の意志で操れるように昇華しろ」
「はい」
短く、確かな返事だった。
やがて、二人は山を降りることになった。