第4章 因縁の残火
「飛天御剣流伝承者の力を平時に抑えるための拘束具。“比古清十郎”の名と共に、代々伝えられてきた」
鋭い眼光が、二人を射抜く。
「覚悟はいいな。剣心…斗亜」
「(初めて見る…これが…真の“比古清十郎”)」
斗亜は、自分の左手が震えていることに気づいた。
「(…震えてる…なんでだ…?死の覚悟なら幕末の頃、いくらでも…ッ)」
兄の手も、わずかに揺れている。
斗亜は歯を食いしばり、拳を強く握り締めた。
震えが、止まる。
欠けているもの、それは…。
ガッ!!!!!
瞬き一つ分の時間。
それだけで、剣心と比古の勝負は終わっていた。
剣心の体が、地面に叩きつけられる。
衝撃音が消えたあと、重い沈黙が落ちた。
その沈黙を破ったのは、斗亜だった。
「俺たちに足りないのは…生きようとする意志だ…」
比古が、ゆっくりと振り返る。
「そうだ。それでいい」
声は静かだが、確信に満ちていた。
「人を斬り、数多の命を奪ったお前らは…悔恨と罪悪感のあまり、自分の命を軽く扱う」
比古の着物の裾が、風に揺れる。
そこには、剣心の一撃で入った裂け目があった。
「自分の命もまた、一人の人間の命だという事実から目を逸らす。それが、お前ら自身の真の強さを抑え…心に巣食う人斬りの自由を許してしまう」
視線が、斗亜に向く。
「それを克服するために必要なのが、今お前が見いだしたものだ。生きようとする意志」
比古ははっきりと言い切る。
「それは何よりも強い。決して忘れるな」
「師匠…」
剣心の声は、震えていた。
「“天翔龍閃”の伝授の結果は、御剣の師弟の運命だ。お前の“不殺”の理の、外側の事だと思え」
ガッ!!!!
一拍遅れて、比古の体に傷が走る。
「師匠!!」
「ッ!? 師匠!!!」
比古はニッと笑い、そのまま前のめりに倒れた。
ドサッ。
「…冗談でしょう…でたらめに強い師匠が…奥義とは言え、逆刃刀の一撃で…」
「師匠!!!息はある!兄貴!しっかりしろ!手を貸してくれ!」
二人は必死に比古を抱え、家の中へ運び込む。
布団に寝かせた後、剣心は何も言わず家の中を探し回り始めた。