第4章 因縁の残火
「ましてや乱撃術である九頭龍閃は、力と体重の差が如実に出る。お前らの九頭龍閃では、俺の九頭龍閃には絶対敵わん」
斗亜は悔しげに拳で地面を殴る。
「じゃあ…比古師匠の九頭龍閃を破れる技なんて…」
「一つだけある」
剣心が顔を上げる。
比古は二人を正面から見据え、静かに口を開いた。
「飛天御剣流 最終奥義――」
空気が震えた。
滝が一瞬止まったように見えた。
比古の足元に砂が吸い込まれるように巻き上がった。
「天翔龍閃だ」
剣心も、斗亜も息を呑んだ。
比古は刀を抜き、ゆっくりと構えを変える。
「九頭龍閃を破れるのはその“上位互換”とも言えるこの一撃のみ。飛天御剣流二百年の歴史がたどり着いた“最後の剣”だ」
斗亜の背中に汗が伝う。
「(あれが…奥義…)」
比古は言葉を続ける。
「天翔龍閃は“最初の一撃”にして“最後の一撃”。九頭龍閃を超える神速をもって、相手の必殺を“上から叩き潰す”剣だ」
剣心は刀を握りしめながら小さく息を呟く。
「師匠…どうすれば…」
「簡単だ。九頭龍閃を放つ“より速く”、“より正確に”、相手の懐へ踏み込み、その全てを打ち破るだけだ」
斗亜が叫ぶ。
「それが簡単だったら苦労しないだろ!!」
比古は笑って肩をすくめる。
「だから教えてやるって言ってんだよ。だが覚悟しとけ。奥義は命を賭けた修行だ」
剣心と斗亜は、比古の言葉にただ静かに息を呑んだ。
滝が轟く。
山が震える。
滝の水音が、さっきよりずっと重く響いて聞こえた。
比古清十郎はわざと背を向け、剣心と斗亜を前に立たせたまま語り続ける。
「誰も九頭龍閃が奥義だなんて言ってないぞ」
その声は、雷鳴の前触れのように低く静かだった。
「たしかに…」
剣心が息を呑む。
斗亜も、昼間の敗北の余韻がまだ胸の内で疼いていた。
比古は淡々と続ける。
「九頭龍閃はな、実践の中で自然発生した技じゃねえ。奥義伝授の“過程”で生まれた技だ。いわば弟子に与える“試験”みてぇなもんだ」
剣心と斗亜は目を丸くする。