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閉店屋の恋は進まない

第1章 パーティと隅っこ 前編


「あの……!」

「あの」

「え〜〜?」

「危ない、ので……」

「うん!」

「いや……その」

「……ベンチへ……」

 聞いていない。
 彼はその後も幾度か声をかけたが、それも、届いていない。

 どうすれば……

 幾度めかに支えた拍子に、柔らかい髪が手の甲を流れた。

「……っ」

 思わず指先が跳ねる。しまった。しかし彼女は気にしている様子はなかった。

「へへ、ありがと!」

「はい……」

 ノルバートは、相手に恥をかかせない作法自体は実家で叩き込まれてきた。ダンスだって問題なくできるはずだ。

 だが、この時は無軌道にふらつく彼女を支えるために、もう型も何もなかった。動きは、ほとんど介護のようだ。

「あっ そっちは段差っ……段差あるから……こっちへ」

「ん〜」

「あの、そろそろ座りませんか……」

「たのしいね!」

 その様子に、否が応でも、さっきの先輩たちが頭をよぎる。

 この子、あそこから連れ出さなかったら、どうなって……? この酔い方で、この見た目とひと懐っこさはあぶなすぎる……!

 また、目が合った。

 まずい、緊張するとすぐ顔に血が上って……いや、大丈夫、暗いからバレてはない、はず……


 弱々しく祈りながら、ノルバートは石畳に気を配り続けた。
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