第6章 氷の家
いよいよ入学式が近づいてきていた。
彼が選んだ場は、定期的に家が催していたパーティだった。
招かれた親戚や交流のある貴族達は、口々に主催であるヴェルツ親子に挨拶をした。
「本日はお招きいただきありがとうございます」
「ご兄弟揃って優秀で。お顔もよく似ていらっしゃる」
「本当に将来が楽しみですね……お勉強の方もよくおできになるとか? ノルバート様は来年あたり進学なさるのかしら?」
そうなんですよ、と言いかけた父の言葉を、ノルバートは遮った。
「兄と同じ学舎を受けましたが、不合格でした。父と相談の上、おそらく再受験するか、留学を考えています ……すみません」
初めての反抗だった。
その声は、少し震えていた。
こうなっては父も、話を合わせるしかなかった。
◇◇◇
「そのまま本当に留学したんだ。それが、最初にこっちにきた理由」
ノルバートが一息つく。
「兄さんみたいにはなれないの、本当はもうわかってたんだけど……
当時はまだ再受験は諦めてなくて、この国で別の学校に一旦は通いながら受験勉強続けて、ギルドにも実戦経験積むために登録したり」
「戻るつもりだったんだ」
「……はじめの頃はね」
彼は頷いた。
「でも、十五歳からこちらの文化に触れて、あの国や家を外から見るようになって……今話した受験の話よりもさらに考え方が変わってしまって」
「考え方?」
シシィが繰り返すと、ノルバートは少しの間言葉を探すように黙った。
「……ごめん。この先は本当に長くなるし……自分の中でも人になんて伝えたらいいのか、まだわからない部分なんだ。
整理できた時に、ちゃんと話したいと思う。いつか、聞いてくれる?」
◇◇◇
すごいな……
寮に戻ってからも、シシィは今日の事で頭がいっぱいだった。
家に逆らって、自分の足で出てきて、ちゃんと生活して。
でも。
……もう、帰らないって。
じゃあ、あの人、いま誰にも、頼れない?
彼はシシィにすら、今日の今日までこの話をしたことがなかったのだ。
ほとんど愚痴らない。閉店するだけ。成績はずっと学年トップ層。
え、むりでしょ。
シシィの中の好きの形が、ぽんと新しい音を立てた。
あの人、なんとかして甘やかせない……かな??