第3章 両面宿儺
【側にいたい】※平安時代の宿儺
都を震わせる名を持つ男がいた。その名は、両面宿儺。呪いの王だ。人々は宿儺を恐れ、その姿を見れば逃げ惑った。圧倒的な力を持ち、誰にも従わない存在。そんな宿儺の屋敷に、今日も1人の人間が訪れる。
「宿儺様」
「…また来たか」
低く冷たい声。普通なら、その一言だけで震え上がる。しかしロロは静かに頭を下げるだけだった。
「俺が何者か分かってるのか」
「はい」
宿儺の呪力がわずかに揺れる。空気が重くなる。それでもロロは目を逸らさない。
「分かっています」
「ならば、なぜ恐れない」
宿儺は興味深そうに問う。ロロは少し考えてから答えた。
「怖いです。でも、宿儺様が怖いだけの方ではないと知っているので」
その言葉に、宿儺は目を細めた。
「随分と勝手な解釈だな」
「そうかもしれません」
「俺は人間に優しくなどない」
「はい」
「貴様を守る理由もない」
「それでもです」
迷いのない返事。宿儺はしばらく黙った。誰も自分にそんな目を向けない。恐怖でも、媚びでもない。ただ真っ直ぐに自分を見る。
「愚かな奴だ」
「よく言われます。でも、宿儺様の隣にいたいと思いました」
その返答に宿儺は鼻で笑う。
「変わった人間だ」
そう言いながらも、追い払うことはしなかった。
「来い」
短い言葉。ロロが隣へ座る。呪いの王の隣など、本来なら誰にも許されない場所。けれど、宿儺は拒まなかった。
「貴様はいつか後悔するぞ」
「しません」
「…本当に愚かな奴だ」
冷たい言葉。しかし、その声に怒りはなかった。その隣にいることを許されたのは、恐れず自分を見るたった1人の人間だった。