第3章 両面宿儺
【もて傅く】※夢主赤ちゃん
宿儺は縁側に腰を下ろし、退屈そうに空を眺めていた。その静寂を破るように、小さな泣き声が響く。
「うぇぇ…!」
宿儺の腕の中で、生後数ヶ月ほどの赤ん坊が身をよじって泣いている。
「…喧しい」
低く呟いても、ロロは泣き止まない。宿儺は眉をひそめ、ロロを抱き直した。
「何が不満だ」
当然、返事はない。代わりに、小さな手が宿儺の頬へ伸びる。ペチッ。ロロは嬉しそうに笑うと、今度は宿儺の頬を何度も触った。宿儺はため息をつく。
「好き勝手しおって」
そう言いながらも、その手を振り払うことはしない。ロロは宿儺の指を握り、きゃっきゃっと笑う。その笑い声が気に入ったのか、宿儺は小さく口角を上げた。
「俺を恐れぬのは、貴様くらいか」
その時、ロロのお腹がぐぅ、と鳴る。宿儺は静かにロロを見下ろした。
「腹が減ったか」
どれ程圧倒的な力を持っていても、赤子の世話だけは力では解決しない。
「面倒なものだ」
ぶっきらぼうに言いながらも、ロロが落ちないようにしっかり支える。ロロは宿儺の着物を握りしめると、安心したように泣き止んだ。やがて眠気がきたのか、小さな欠伸を一つ。宿儺の胸にもたれ、そのまま静かな寝息を立て始める。
「…寝るのだけは早いな」
宿儺はロロの前髪を指先で軽く払い、穏やかな寝顔を見つめた。誰も信じないだろう。呪いの王が、小さな命を腕の中で眠らせているなど。
「強く育て」
それは命令にも、願いにも聞こえる短い一言だった。ロロは眠ったまま小さく笑い、宿儺の指をギュッと握り返す。宿儺はその小さな手を見つめ、鼻で笑う。
「離す気はないらしい」
その日は戦いの音ではなく、小さな寝息だけが静かに響いていた。