第2章 虎杖悠仁
【代償】※夢主2年生
「…嫌い」
ロロがそう言った瞬間、虎杖は笑わなかった。
「そっか」
それだけ言って、静かに背を向ける。ロロは唇を噛んだ。本当は嫌いじゃない。嫌いになれるはずがない。ロロの術式『代償』。誰かを守るたび、その人との『縁』を少しずつ削ってしまう術式だった。守られた相手は、ロロに対する感情が薄れていく。友達だった人は他人になり、大切だった人ほど、ロロを忘れていく。何度も経験した。だから、虎杖だけは守らないと決めていた。けれど任務中、虎杖が致命傷を負いかけた。考えるより先に体が動いた。術式を使って虎杖は助かった。その代わり。
翌日。
「おはよう、虎杖」
ロロが声をかけても、虎杖は首をかしげた。
「…悪い、誰だっけ」
その一言で、ロロの世界は止まった。術式は成功した。だからこそ、失った。ロロは笑ってみせる。
「ごめん、人違いだった」
それ以来、虎杖はロロを見ても素通りする。知らない人を見るような目。一緒に笑った思い出も。交わした約束も。全部、虎杖の中から消えていた。ロロはそれでも毎日、遠くから虎杖を見守った。
「今日も元気そう」
その一言だけで十分だと言い聞かせながら。
数か月後。強敵との戦いで、ロロは瀕死になる。薄れていく意識の中、聞き慣れた声が響いた。
「…なんで」
虎杖だった。
「なんで、お前が傷ついてるの見たら、こんなに苦しいんだ」
覚えていない。名前も知らない。それなのに、胸だけが痛む。ロロはかすかに笑った。
「忘れてて、よかったのに」
「よくない!」
虎杖はロロを抱き起こした。
「思い出せなくても分かる!俺、お前を失いたくない!」
その叫びに、ロロの瞳から涙があふれた。術式は記憶を奪えても。心の奥底に刻まれた想いまでは、消せなかった。