第1章 五条悟
【ベーグル】
休日の朝。
「ベーグル作ろうよ」
突然そう言い出した五条に、ロロは目を丸くした。
「悟、作れるの?」
「失礼だなぁ。僕、やればできる男なんだけど?」
得意げな顔でエプロンをつける五条。ところが。
「…あれ?」
生地が妙にべたべたしている。
「悟、粉の量違うんじゃない?」
「え、そう?」
2人でレシピを覗き込む。肩が触れるほど近い距離に、ロロは少しだけ笑った。
「こういうの、久しぶりだね」
「ん?」
「一緒に料理するの」
五条は一瞬だけ黙った。
「…そうだね」
いつもの軽い声ではなかった。生地をこねながら、五条がぽつりと言う。
「こういう普通の時間、もっと欲しかったんだよね。任務とか、呪術師とか。そういうの全部忘れてさ」
丸めた生地を見つめながら、五条は笑った。
「ロロとこうやって、くだらないことで笑ってたい」
胸がきゅっと締めつけられる。
「じゃあ、また作ろうよ」
「うん」
焼き上がったベーグルを半分に切る。少し焦げていたけれど、2人で食べれば不思議と美味しかった。
「悟、焦げてる」
「愛情の焦げ目ってやつ」
「絶対違う」
笑い声が部屋に響く。その瞬間だけは、未来のことなんて考えなかった。ただ隣にいる。それだけで十分だった。五条はベーグルを一口かじって、小さく笑う。