第1章 五条悟
【無知は罪】
「ねえ、知ってた?」
五条が突然そう言った。
「何をです?」
「無知は罪なんだよ」
いつもの軽い声とは違う、少し低い声だった。ロロが黙って見上げると、五条はサングラスを少し下げて、その目を覗き込む。
「知らないこと自体が悪いわけじゃない」
「じゃあ、何が罪なんですか?」
「知ろうとしないこと」
五条はそう言って、指先で机を軽く叩いた。
「自分が知らないって認めるの、意外と難しいんだよね。だから皆、分かったふりをする」
「…耳が痛いです」
「でしょ?」
楽しそうに笑う。
「でもロロは、分からないなら僕に聞けばいい」
「何でもですか?」
「何でも」
あまりにも迷いのない返事だった。
「もし、五条先生が知らないことがあったら?」
「んー…」
五条は少し考えるふりをする。
「今のところないかな」
「絶対嘘です」
「ひどくない?」
笑いながら、五条はロロの額を指先で軽くつついた。
「でもね、知らないことを恥ずかしがる必要はないよ」
「…五条先生でも?」
「僕でも」
珍しく素直な答えだった。
「知らないことを知ろうとする。それだけで十分」
そして、すぐにいつもの意地悪な笑顔へ戻る。
「ただし、僕が教えたことを聞き流したらダメ」
「どうしてです?」
「もったいないから」
「何がですか?」
五条は少し身を屈める。
「僕がロロのために時間を使ってるんだから」
「…先生、自分で言いますか?」
「言うよ。僕、ロロには結構甘いんだから」
「そうなんですか?」
「そうだよ」
五条は自信満々に言い切った。
「だから分からないことがあったら、ちゃんと僕に聞いて。知らないままでいるより、僕と一緒に知っていけばいい」
一瞬だけ、いつもの軽薄さが消えた。
「それなら、無知は罪じゃないでしょ?」
ロロが笑う。
「じゃあ、先生にいっぱい聞きます」
「うん。いくらでもどうぞ」
五条も笑った。
「その代わり、僕から逃げないでね」
冗談めいた言葉。けれど、その目だけは妙に真剣だった。