第1章 五条悟
【よさこい】※学生五条
夏祭りの夜。街は人の声と太鼓の音で溢れていた。よさこいの舞台には、たくさんの踊り子が並ぶ。けれど、その中にいるロロの姿を、誰も見ていない。ロロの術式『彩魂(さいこん)』。それは、自身の存在と呪力を周囲の認識から隠す術式。観客はロロが目の前で舞っていても気づかない。写真を撮っても、映像を残しても、そこには何も映らない。
「変な術式だよね」
ロロは扇子を握りながら笑った。
「頑張って踊っても、誰にも届かないなんて」
その隣で、五条はいつものように笑う。
「でも俺には届いてるよ」
「六眼のおかげですか?」
「違う。六眼がなくても、俺はロロを見つけるよ」
ロロが驚いて顔を上げる。五条は少しだけ優しい顔をしていた。
「だって、ロロが一生懸命なの知ってるから。誰にも見えない場所で練習して、失敗しても一人でやり直して、それでも誰かに喜んでほしいって思ってる」
五条は肩をすくめる。
「そんなロロを見逃すほど、俺は鈍くないよ」
舞台へ上がる時間になる。ロロは深呼吸した。
「もし、誰にも見えなかったら」
「俺が見る」
「拍手も聞こえなかったら」
「俺が一番大きくする」
「綺麗じゃなかったら…」
「それはありえない。ロロの術式、俺が一番好きだから」
太鼓が鳴る。ロロが舞い始める。誰にも見えないはずの舞。けれど五条の目には、夜空より綺麗な光景が広がっていた。舞うたびに生まれる光。赤は優しさ。青は強さ。金は幸せ。そして最後に咲く、白に近い青。
「…俺の色?」
「はい。五条先輩が、私を見つけてくれる色だから」
五条は少し黙った。そして、珍しく照れたように笑う。
「それ、ずるいな。そんなこと言われたら、もっとロロだけの特別になりたくなるじゃん」
祭りの夜。何万人もの人がいる場所で。誰にも見えない舞を、ただ1人だけが見ていた。五条だけが知る、世界で一番綺麗なよさこいだった。