第1章 五条悟
【散髪】
「伸びたね」
後ろから髪をひと房すくい上げながら、五条が楽しそうに笑う。
「美容院、なかなか行けなくて」
「僕が切ってあげるよ」
「…本気?」
「もちろん」
あまりにも自信満々に言うものだから、不安になりながらも椅子に腰掛けた。
「変になったら?」
「最強を信じなよ」
「散髪は別問題でしょ」
ケープをかけてもらい、くしで髪をとかされる。長い指先が耳に触れるたび、くすぐったくて肩が跳ねた。
「動かないで」
「だって、くすぐったい…」
「ふふ」
小さく笑った五条は、驚くほど真剣な表情でハサミを入れる。静かな部屋に、シャキ、シャキ、と心地よい音だけが響く。
「意外…」
「何が?」
「もっと適当に切ると思ってた」
「ロロの髪だよ?雑に扱うわけないじゃん」
その一言に、胸が熱くなる。五条は前髪を少し整え、毛先を丁寧にそろえると、最後に指でふわりと髪を整えた。
「はい、完成」
鏡を見ると、長さはほとんど変わらないのに、まとまりがよくなっていて驚く。
「すごい!」
「でしょ?」
得意げに笑う五条は、ロロの髪をそっと耳にかける。
「かわいい」
不意打ちの一言に、顔が熱くなった。
「照れた?」
「…照れてない」
「嘘。耳まで真っ赤」
くすくす笑いながら額を軽く小突くと、五条は満足そうに目を細める。
「また伸びたら切ってあげる」
「美容師になれるんじゃない?」
「ロロ専属なら、なってもいいよ」
そう言って優しく頭を撫でる五条の手は、散髪の時よりもずっと甘く、名残惜しそうにロロの髪を何度も梳いていた。