第1章 五条悟
【鉢かづき姫】※学生五条
母親の遺した鉢は、ロロの頭から決して外れなかった。そんなある日、五条がロロを見て吹き出した。
「ははっ、本当に鉢かぶってる」
「…笑いたいならどうぞ」
「うん、笑った」
最悪な第一印象だった。帰ろうとすると、五条は当然のようについてくる。
「名前は?」
「教えません」
「じゃあ俺が勝手に呼ぶ。鉢ちゃん」
「失礼ですね」
「怒った顔も悪くない」
軽薄で、自信満々。ロロは呆れるしかなかった。それでも翌日も、その翌日も、五条は現れる。ある日、通行人がロロを指差して笑った。
「気味悪い」
その瞬間、五条の笑みが消えた。
「おい。人の趣味に文句つけるほど、自分は立派なの?」
静かな声なのに、周囲は凍りつく。相手が逃げ出すと、五条は何事もなかったように振り返った。
「行こ」
「…どうして庇うんですか」
「別に。俺のお気に入りが馬鹿にされるの、気に食わないだけ」
その言葉に胸が熱くなる。ロロは鉢を撫でながら呟いた。
「この鉢さえなければ…」
「違う」
五条は即座に否定した。
「鉢がなくても、笑う奴は別の理由を探す。だから鉢のせいにするな」
「でも…」
「俺はもう鉢なんか見てない」
真っ直ぐな青い瞳があなたを映す。
「見てるのは君だけ」
その瞬間、鉢にひびが入った。ぱきり、と乾いた音。やがて鉢は砕け、長く隠れていた素顔が現れる。五条は一瞬だけ目を見開き、すぐに鼻で笑った。
「反則じゃん」
「…がっかりしました?」
「逆」
五条はロロの額を軽く小突く。
「綺麗だから好きになったわけじゃない」
胸が締めつけられる。五条は意地悪く笑って続けた。
「好きになった相手が、たまたまこんな美人だっただけ」
ロロの頬が赤く染まる。
「その顔、俺以外にはあんまり見せないで」
傲慢で、性格が悪くて、独占欲も強い。それでも差し出された手だけは、誰よりも優しかった。