第1章 五条悟
【箱入り娘】
「悟君、1人でお買い物したい」
ロロのその一言に、五条は持っていたジュースを吹きかけそうになった。
「…1人で?」
「うん。いつも悟君が一緒だから」
正直、不安しかない。ロロは由緒ある家の一人娘。誰よりも大切に育てられた箱入り娘で、電車も数えるほどしか乗ったことがなく、道を聞かれれば相手を疑うどころか一緒に目的地を探し始めるような子だ。
「じゃあ、頑張ってくるね!」
「待って」
五条は笑顔のままロロの肩を掴んだ。
「財布ある?」
「ある」
「スマホは?」
「ある」
「知らない人についていかない」
「行かないよ」
「本当に?」
「…たぶん」
「たぶんが一番怖い」
結局、五条は少し離れた場所からこっそり見守ることにした。ロロはコンビニに入り、牛乳を手に取る。そこへ年配の女性が声をかけた。
「ごめんなさい、この商品どこにあるか分かる?」
ロロは困った顔で店内を見回す。
「えっと…私も初めて来たので…でも一緒に探します!」
「優しすぎ」
思わず物陰から声が漏れた。その後もセルフレジの前で固まり、店員に何度も頭を下げ、袋詰めまで、ありがとうございますと何度もお辞儀をする。無事に店を出たロロは、小さくガッツポーズをした。
「できた…!」
その姿を見て、五条は思わず笑う。同時に胸が締めつけられた。こんなに無防備で、まっすぐで、人を疑わない。悪い人間なら簡単に騙せてしまう。
「お疲れ」
五条が姿を現すと、ロロは目を丸くした。
「見てたの?」
「全部」
「もう、恥ずかしい…」
頬を赤くするロロの頭を、五条は優しく撫でる。
「ちゃんと1人で買えたじゃん。でも、まだ危なっかしい」
「うぅ…」
五条はロロの買い物袋を片手で持ち、もう片方の手でそっと指を絡めた。
「箱入り娘を卒業しなくていい」
「え?」
「少しずつ世界を知ればいい。その隣には、ずっと僕がいる」
ロロは照れながら微笑み、小さく手を握り返す。
「じゃあ次は、一緒に来てくれる?」
「もちろん」
五条は幸せそうに笑った。
「ロロが一人前になる日が来ても、僕はたぶん過保護なままだよ」