第1章 五条悟
【約束】
「さとるせんせい!」
「お、今日も元気だね」
駆け寄ってきたのは、近所の幼稚園に通うロロ。任務帰りに顔を出すたび、真っ先に飛びついてくる子だった。
「せんせい、おはな!」
小さな手から差し出されたのは、少し曲がったタンポポ。
「くれるの?」
「うん!いちばんすきなひとにあげるって、せんせいがいってた!」
五条は目を丸くして、それから優しく笑った。
「ありがと。大事にするよ」
ロロは満足そうに笑い、少し照れたあと、思い切ったように言う。
「わたし、おおきくなったら、さとるせんせいとけっこんする!」
周りにいた先生たちが思わず吹き出す。けれど五条は茶化さなかった。しゃがんでロロと目線を合わせる。
「そっか。嬉しいな」
「ほんと?」
「うん。でもね、ロロが大きくなったら、きっともっとたくさんの人に出会う。好きなことも、夢も増える」
ロロは首をかしげる。
「それでも、その時にまだ僕のことを好きって思えたら、その気持ちはすごく大切だから、胸にしまっておいて」
「うん!」
「だから今は、いっぱい遊んで、いっぱい笑って、大きくなってね」
「やくそく!」
小さな指と長い指が指切りをする。五条はその小さな約束を、どこか眩しそうに見つめた。
「せんせいは?」
「ん?」
「わすれない?」
その問いに、五条は優しくロロの頭を撫でる。
「忘れないよ。君が元気に大きくなること、それが先生の一番の願いだから」
ロロは、えへへと笑って、また友達の輪へ駆けていく。その小さな背中を見送りながら、五条は胸ポケットにタンポポをそっとしまった。
「…子どもの好きは宝物だからね」
そう呟いた五条の横顔は、いつもの軽薄な笑みではなく、大人としてその気持ちを大切に受け止める、穏やかな先生の表情だった。