第14章 伏黒甚爾
【ヒモの男】
昼を過ぎても、カーテンは閉まったままだった。
「腹減った」
ソファに寝転がったまま、甚爾が一言だけ言う。
「昨日、依頼で稼いだでしょ?」
「もうねぇ」
「…全部使ったの?」
「競馬」
ため息をつきながらコンビニ袋を机に置くと、甚爾はむくりと起き上がった。
「お、肉あるじゃん」
「半額シール付きだけどね」
「うまけりゃ十分だ」
「ヒモなんだから、せめて洗濯くらいしてよ」
「昨日した」
「畳んでない」
「そこまでは契約外」
そう言って笑う顔だけは妙に格好いいから腹が立つ。夕飯を作っていると、背後から腕が回る。
「働け」
「今は充電中」
「一生充電してるじゃない」
「その間、ロロが養ってくれる」
「しない」
即答すると、甚爾は「冷てぇな」と笑いながら頬をつつく。食卓に並んだ生姜焼きを見て、甚爾は子どものように目を細めた。
「やっぱ家飯が一番だな」
「その感想、働いてる人が言う台詞だから」
「じゃあ、皿洗いくらいはするか」
「珍しい」
「気分だ」
結局、皿を洗い終えた甚爾はソファへ戻り、ロロを隣へ引っ張った。
「ほら、膝貸せ。今日は俺が甘える日だ」
大柄な男が遠慮なく頭を預けてくる。呆れながら髪を撫でると、甚爾は満足そうに目を閉じた。
「…やっぱり、ロロのとこが一番落ち着く」
その一言だけは、嘘じゃない。だから今日も、ダメ男を追い出せずにいるのだった。