第12章 脹相
【愛】
「…ロロは、本当に分かっているのか」
低い声が、静かな部屋に落ちた。脹相は真剣な顔でこちらを見つめている。いつもの不器用な優しさとは違う。何かを決意したような、逃がすつもりのない目だった。
「何が?」
そう聞くと、脹相は少しだけ眉を寄せる。
「俺に好かれるということが、どういうことかだ」
大げさだと思って笑いそうになった。でも、脹相の表情を見てやめた。脹相は本気だった。
「俺は器用じゃない。上手く甘い言葉を言うこともできない。だが、一度大切だと思ったものを、簡単に手放すことはできない」
ゆっくり伸びてきた手が、そっと頭に触れる。乱暴そうに見える大きな手なのに、触れ方だけは壊れ物を扱うようだった。『寒くないか』。『 疲れていないか』。『 ちゃんと食べたか』。いつも聞いてくる何気ない言葉。それが全部、脹相なりの愛情だったのだと気付く。
「俺は、ロロを守りたい」
脹相はまっすぐに言った。
「笑っていてほしい。幸せでいてほしい。その隣にいるのが俺であってほしい」
胸がいっぱいになる。脹相は愛を知らなかったわけじゃない。ただ、誰かを大切にする方法を、必死に探していただけだった。
「脹相」
名前を呼ぶと、脹相の目が少しだけ揺れる。
「私、覚悟できてるよ」
そう言うと、脹相は驚いたように瞬きをした。
「本当にか?」
「うん」
「俺は重いぞ」
「知ってる」
「心配性だ」
「知ってる」
「…過保護になる」
「それも知ってる」
少し黙ったあと、脹相は小さく息を吐いた。そして、珍しく柔らかく笑う。
「そうか」
その一言に、安心と喜びが全部詰まっていた。
「なら、もう遠慮はしない」
大きな腕がそっと包み込む。
「愛される覚悟は出来たか」
耳元で囁かれた声は、いつもの低い声なのに、不思議なくらい優しかった。
「俺は、ロロが思っているよりずっと、ロロを大切にする」
その日から、脹相の愛情表現は少しだけ分かりやすくなった。帰れば必ず迎えてくれる。寒ければすぐ気付く。眠そうなら何も言わず隣に座る。不器用で、真っ直ぐで、少し重たい。でもそれが、脹相の愛だった。