第11章 真人
【善意】
真人には、一日に三時間だけ『善意』があった。それ以外の時間は、人の心を玩具みたいに弄ぶ。笑いながら傷つけ、壊して、飽きれば捨てる。けれど、午後3時から6時まで。その3時間だけは、別人のように穏やかだった。
「今日は何がしたい?」
「…散歩」
「いいよ」
真人は笑う。いつもの意地悪な笑みではない。ただ隣を歩いて、道端の花を見つければ、綺麗だねと言い、喉が渇いたと言えば飲み物を渡してくれる。
「真人って、この時間だけ優しいね」
そう言うと、真人は少しだけ首を傾げた。
「善意っていうより、俺がロロに飽きてないだけかもよ?」
冗談のような言葉。それでも、この3時間だけは信じたかった。ある日、時計が6時を指した。
「じゃあ、また明日」
そう言って離れようとすると、真人の手が伸びてきた。けれど、すぐに止まる。6時を過ぎたからだ。
「…行って」
声が低くなる。
「早く」
「真人?」
「俺が優しいままでいられるうちに」
初めて聞いた、弱い声だった。
「明日も3時に来ていい?」
「…来れば?」
真人は顔を背ける。
「3時間だけなら、ロロを大切にしてあげるよ」
その言葉が、優しさなのか。それとも残酷な約束なのか。それでも翌日、時計が3時を指す頃には、また真人の隣にいた。
「来たね」
真人は笑った。
「じゃあ今日も、3時間だけロロの味方になろうか」