第11章 真人
【恐怖】
「また会えたね」
真人は、廃校舎の窓辺に腰掛けて笑っていた。まるで友達を待っていたかのような気軽さ。その笑顔が、何より恐ろしい。
「逃げる?」
ロロが一歩下がると、真人は肩を揺らした。
「今のは20点の恐怖」
また一歩。
「40点」
さらに近づく。
「70点」
ロロは踵を返して走り出した。その瞬間。
「100点」
耳元で声がした。
「っ…!」
いつの間にか背後に立っていた真人が、ロロの肩にそっと手を置く。
「やっぱりロロは分かりやすい」
優しく撫でるような手つき。けれどロロは、その手が人を簡単に壊せることを知っている。
「やめて…!」
「やめない」
真人は微笑む。
「ロロはさ、俺が怖いんじゃない」
真人はロロの顎を持ち上げ、逃げ場を奪う。
「俺が何をするか分からないことが怖いんだ」
ロロは震えながら睨み返した。真人はその視線を受けて、嬉しそうに笑う。
「いい目。その目が絶望に変わる瞬間が好きなんだ」
ロロは真人の腕を振り払おうとする。しかし、びくともしない。
「助けを待ってる?」
その一言に息が止まる。
「さっきから廊下ばかり見てる。誰かが来るって期待してる」
図星だった。誰でもいい。助けてほしい。その願いさえ、真人には隠せない。
「0から100まで、全部お見通し」
真人は笑顔のまま続ける。
「希望ってさ、人間を一番きれいに壊してくれるんだ。助かるかもしれない。誰かが来てくれるかもしれない。きっと生きて帰れる」
真人は1本ずつ指を折る。
「その希望を、1つずつ潰したときの顔が本当に最高なんだよ」
ロロは涙をこらえる。泣けば喜ばせるだけだ。そう思った瞬間、真人は口角を吊り上げた。
「偉いね。泣くのを我慢してる」
真人はロロの耳元で囁く。
「ロロは自分で気づいてないだけ。もう、とっくに壊れ始めてるよ」
その言葉だけで、張り詰めていた心が音を立てて軋んだ。真人はその音が聞こえたかのように、満足げに笑う。
「ああ、やっぱり。ロロの絶望は、期待以上だ。」
その笑い声だけが、校舎にいつまでも響き続けた。