第10章 夏油傑
【夜の植物園】※学生夏油
夜の植物園は、昼間とはまるで違う顔をしていた。足元を照らす小さなライト。ガラス越しに見える月。夜になると花を開く植物たち。
「綺麗…」
ロロが足を止めると、隣の夏油も立ち止まった。
「気に入った?」
「うん。でも…少し暗いね」
「じゃあ、私のそばに来て」
冗談めかした優しい声。その言葉を聞いた瞬間、ロロは一歩近づき、そのまま夏油にぎゅっと抱きついた。
「…おや」
夏油が少し驚いたように瞬きをする。けれど、すぐに表情を柔らかくした。
「随分と素直になったね」
「だめ?」
「まさか」
夏油は笑いながら、ロロが離れないようにそっと支える。
「むしろ嬉しいよ」
「ほんと?」
「本当」
ロロが胸元に顔を隠すと、夏油は小さく笑った。
「そんなに私のことが好きかい?」
「…今は答えたくない」
「ふふ。じゃあ、答えなくていい」
急かさず、そのまま隣にいてくれる。植物園には、葉が風に揺れる音だけが響いていた。しばらくしてロロが顔を上げる。
「傑」
「ん?」
「もう少しだけ、抱きついててもいい?」
夏油は目を細めて、優しく頷いた。
「もちろん。夜は長いからね」
月明かりの下。2人は色とりどりの夜の花に囲まれながら、静かに寄り添っていた。