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短編

第10章 夏油傑


【君と私だけ】※学生夏油


「ねえ、もしもこの世界に、ロロと私しかいなかったら?」

夕暮れの屋上で、夏油が突然そう言った。

「…寂しくない?」

「ロロがいるなら、寂しくないよ」

迷いのない返事だった。

「友達も、家族も、誰もいなくなるんだよ?」

「それでもいい」

夏油は静かに笑った。

「ロロが隣にいて、私の名前を呼んでくれる。それだけで十分だから」

「…ずいぶん欲張りだね」

「そうかもしれない」

夏油は少しだけ視線を伏せる。

「私はね、ロロが思っているよりずっと欲張りなんだ」

「たとえば?」

「ロロの笑顔も、声も、くだらない話も。ロロと過ごした時間を、一つ残らず私のものにしたい」

冗談めかしているのに、その瞳は真剣だった。

「だから」

夏油がこちらを見る。

「この世界には、ロロと私以外何も要らない」

胸が小さく痛んだ。

「そんなこと言ったら、本当に2人きりになったらどうするの?」

「決まってるだろう?」

差し出された手を握る。

「2人で、この世界を好きになる」

「何もないのに?」

「ロロがいる」

その一言だけで、答えは十分だった。

「それに、何もないなら一緒に作ればいい。朝になったらロロと食事をして、昼は散歩して、夜は星を見る」

「…毎日?」

「毎日」

夏油は穏やかに笑った。

「ロロが飽きるまで、何度でも」

「私が飽きたら?」

「そのときは、私がまたロロを好きにさせるよ」

「ずるい」

繋いだ手に、少しだけ力が込められる。世界が2人を置いていったとしても。2人だけが残されたとしても。夏油はきっと、何度でもこちらを選ぶ。

「…じゃあ、今は2人だけでいようか」

「うん」

夕日が沈む。世界が静かに夜へ変わっていく。その中で2人は、互いの手を離さなかった。
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