第10章 夏油傑
【ドジっ子】※学生夏油
「また転んだのか」
任務帰り、高専の廊下に響いた夏油の声に、ロロは気まずそうに笑った。
「だって床が滑って…」
「床のせいにするのは三回目だよ」
苦笑しながら近づいた夏油は、ロロの膝についた埃を払う。手つきは呆れているようで、驚くほど優しい。
「見せて」
「大丈夫だよ」
「ロロの大丈夫は信用していない」
そう言ってしゃがみ込み、小さな擦り傷を見つけると、ポケットから絆創膏を取り出した。
「また持ってるの?」
「ロロがいると必需品だからね」
貼り終えると、夏油はロロの額を軽く小突く。
「少しは周りを見て歩きなさい」
「気をつけてるんだけど…」
言い終わる前に、ロロは落ちていた鞄につまずいて前へ倒れそうになった。
「わっ!」
夏油はため息をつきながら、腰を抱いて受け止める。
「ほら、言ったそばから」
「ご、ごめん…」
「謝らなくていい。ただ、ロロが怪我をすると私が困る」
その一言に、ロロの心臓が跳ねた。
「私が心配なの?」
「もちろん。ロロは自分を大切にしないだろう?だから私が気にかけるしかない」
沈黙が流れる。照れて視線を逸らしたロロのお腹が、小さく鳴った。
「…昼食は?」
「食べ忘れた」
「予想通りだ」
夏油は紙袋を差し出した。中にはロロの好きなパンと飲み物。
「また買ってくれたの?」
「ロロは転ぶし、食事も忘れる。今日は両方当たった」
くすっと笑う夏油につられて、ロロも笑う。
「傑って、お母さんみたい」
「恋人候補としては複雑な評価だね」
思わぬ言葉にロロが固まると、夏油はロロの手を自然と握った。
「恋人になれば、毎日こうして守れる」
優しい笑顔に胸が熱くなる。
「…その、よろしくお願いします」
小さく答えると、夏油は嬉しそうに目を細めた。
「これからもロロは何度も転ぶだろう」
「否定できない…」
「だから、そのたびに私が受け止める」
握る手が少しだけ強くなる。ロロは照れ笑いを浮かべながら、もう転ばないよう夏油の隣をゆっくり歩き始めた。