第10章 夏油傑
【相合傘】※学生夏油
「傑」
雨宿りをしていた軒先で名前を呼ぶと、夏油は「どうしたんだい」と穏やかに微笑んだ。返事をする前に、ザーッと激しい雨が降り始める。
「参ったね」
そう言いながら夏油が開いた傘は一本だけ。
「ほら、おいで」
ロロは頷き、小さく肩を寄せた。歩き始めると、肩どころか腕まで触れ合う距離になる。
「近くない?」
「相合傘なんだから、これくらい普通さ」
余裕そうな顔をしているのに、耳だけが少し赤い。
「傑も照れるんだね」
そうからかうと、夏油は少しだけ困ったように笑った。
「好きな人がこんなに近くにいるんだ。平気なわけがないだろう」
真っすぐな言葉に、ロロは思わず立ち止まる。
「今、好きって」
「何度でも言うよ」
夏油は傘を持っていない方の手で、ロロの手を包み込んだ。
「私はロロが好きだ。任務で傷つくたび心配になるし、笑っていると安心する。気づけば、ロロのことばかり考えていた」
ロロの瞳が潤む。
「私も好き」
その瞬間、夏油は心から安堵したように笑った。
「よかった。振られたらどうしようって、実は少し怖かったんだ」
「傑でもそんなこと思うの?」
「ああ。ロロのことになると、自信なんて簡単になくなる」
雨音が2人だけの世界を包む。夏油はロロの額の濡れた髪を指先で払うと、そっと額を寄せた。
「1つ、お願いがある」
「なに?」
「これから先も、雨の日は私の隣を歩いてほしい」
「雨の日だけ?」
そう尋ねると、夏油は優しく目を細めた。
「いや、晴れの日も、曇りの日も。ロロの人生を、ずっと隣で歩きたい」
胸がいっぱいになったロロは、そっと夏油の胸へ寄り添う。夏油は傘を握ったまま、もう片方の腕でロロを優しく抱き寄せた。
「愛してる」
雨音に紛れるくらい小さな声だった。けれど、その言葉は誰よりも温かく、ロロの心にまっすぐ届いた。