第10章 夏油傑
【この命尽きるまで】※学生夏油
雨上がりの任務帰り。制服は泥だらけで、髪からはまだ雫が落ちていた。
「最悪だね」
2人で顔を見合わせ、声を上げて笑う。こんな何気ない時間が、たまらなく愛おしかった。ふと、ロロは立ち止まる。
「ねえ、傑」
「どうした?」
「もしさ、明日が来ないって分かってたら、何したい?」
突然の問いに、夏油は少しだけ考える。
「難しい質問だね」
「私はね」
夏油の返事を待たずに、ロロは続けた。
「朝まで話して、一緒に美味しいもの食べて、綺麗な景色を見て、最後まで笑ってたい」
「怖くないのかい?」
「怖いよ。でも、一人で泣くより、傑と笑ってるほうがいい」
「…ロロは強いね」
「違うよ」
ロロは首を横に振る。
「強いんじゃない」
一歩近づき、夏油の手を握る。
「傑がいるから、怖くても前を向けるの」
その温もりに、夏油は静かに息をのんだ。
「参ったな」
困ったように笑いながらも、その手を離そうとはしない。
「私のほうが、ロロに支えられている」
「ほんと?」
「ああ。ロロといると、不思議なんだ」
「何が?」
「明日も生きてみようと思える」
ロロは少しだけ目を潤ませる。夏油はそんなロロの額を、指先で軽くつついた。
「この命尽きるまで、とことん楽しもうか」
「うん!」
「後悔する暇なんてないくらい、たくさん笑って。たくさん喧嘩もして。仲直りもして。美味しいものも食べて。ロロの好きな場所へ行って」
言葉を重ねるたびに、未来が少しずつ形になっていく。永遠なんて約束できない。それでも、今この瞬間を積み重ねることはできる。夏油はロロの手を握り直し、穏やかに微笑んだ。
「最後の日に、楽しかったって笑える人生にしよう」
ロロも強く頷く。
「その隣には、絶対に傑がいてね」
「もちろん」
夏油は迷うことなく答えた。
「ロロが笑っている限り、私は何度でもその隣で笑うよ」
繋いだ手の温もりだけは、明日も、その次の日も、きっと忘れないと思えた。