第9章 禪院直哉
【交際0日婚】
「今日から、ロロは俺の嫁や」
禪院家の広間で、禪院直哉は当然のように言い放った。見合いで初めて顔を合わせてから、まだ数時間。恋人だった時間は一秒もないまま、婚姻は決まった。
「…本当に、これでいいんですか」
小さく尋ねると、直哉は鼻で笑う。
「今さら何言うてんねん。婚姻届も出した。もう後戻りはあらへん」
冷たい言い方なのに、不思議と威圧感はなかった。部屋へ戻る途中、緊張で足が止まる。
「…怖いか」
振り返った直哉が、ぽつりと聞いた。
「少しだけ」
正直に答えると、直哉はため息を吐く。
「安心せぇ。嫌がることはせぇへん」
そう言って差し出された手は、大きくて温かかった。
「恋人やった期間は0日でも、これから増やしたらええ」
ロロがおそるおそる手を重ねると、直哉は指を絡める。
「毎朝、おはよう言うて、飯を一緒に食うて、腹立ったら喧嘩もして」
思わず笑うと、直哉も口元を緩めた。
「最後には、好きやって自然に言える夫婦になれば十分や」
その笑顔は、見合いの席では見せなかった柔らかなものだった。
「恋人としての1日目やな」
「結婚1日目でもありますね」
「せや」
直哉はロロの額にそっと口づける。
「順番なんかどうでもええ。夫婦から始まる恋も悪ないやろ」
胸が少しだけ軽くなる。交際期間は0日。けれど手をつないで歩き出した今日が、2人にとって最初の恋の日になった。