第9章 禪院直哉
【隣】
「直哉様、また文が届いてます」
使用人が差し出した手紙の束を見て、ロロは小さくため息をつく。恋文。贈り物。見合いの話。どれも相手は違う。さすが禪院家きっての美丈夫、と言えば聞こえはいいけれど、本人はその山を一瞥しただけで興味なさそうに鼻で笑った。
「また?」
「はい」
「ほな、捨てといて。読む時間がもったいない」
あまりにも淡白な返事に、ロロは目を丸くする。
「モテるんですね」
そう言うと、直哉は肩をすくめた。
「今さら何言うてんねん」
「自覚あるんですか」
「あるに決まっとる」
悪びれもせず笑う姿が、なんとも直哉らしい。
「顔もええ、家柄もええ、実力もある。寄ってくる女がおるんは、いつものことや」
言い切るその傲慢さに呆れながらも、どこか納得してしまう。
「…じゃあ、私じゃなくてもよかったんじゃ」
ぽつりと漏らした言葉に、直哉の足が止まる。
「アホか」
低い声だった。
「向こうが勝手に寄ってくるんと、俺が選ぶ相手は別や」
そう言ってロロの顎をそっと持ち上げる。
「勘違いしたらあかん」
真っ直ぐ目を見つめられ、鼓動が速くなる。
「俺が隣に置く女は、ロロだけや」
「…でも、みんな綺麗な人ばかりで」
「知らん。俺が見たい顔は、ロロだけやし」
耳まで熱くなったロロを見て、直哉は満足そうに口角を上げる。
「安心せえ」
そう言って髪を優しく撫でた。
「俺は昔からモテる。そんなん、息するんと同じくらい当たり前や」
少し間を置いて、意地悪そうに笑う。
「せやけど、ロロに惚れられたんだけは、何回思い出しても気分ええわ」
悔しいほど自信満々で、傲慢で。それでも、その視線は誰よりも真っ直ぐロロだけを映していた。